「ふぉれしゅとー!」
誰かが体を揺さぶっている。とても小さな衝撃。
意識が覚醒してくれば、誰がやっているのか予測がついた。
「…お…朝か。お早う、」
「おはよー」
すっかり身支度を整えたが俺の真横にいた。
外を見ればまだ日は昇ったばかりのようだ、けれどとてもすっきりとした目覚め。
「お早うございます、フォレスト」
「お早う、イオン。はいつから起きているんだ?まだ見たところ朝早いようだが」
「僕より先に起きていましたよ。聞いたらプレセアが朝食を作りに起きた時が起きてきたそうです」
つまりは一番早く起きたプレセアと同時に目覚めたという事になる。
元の年齢のは結構寝起きが良い方ではなかったが…子供になるとそこも変わるんだな。
「ごはんできたの。もねってちゅだったんだよ」
「そうか。それは楽しみだな」
昨晩、イオンによって寝かしつけられたは朝まで一度も起きることなくぐっすりと眠ってくれた。
育児日記の注意事項“泣かさない事”は守れたようで安心したな。
ガイから……散々言われていたしな。
『フォレストの旦那、次はアンタの当番なんだって?』
『ガイか。ああ、俺とイオン、それからアニーとプレセアと聞いている』
『旦那なら安心だな。なんせあのティルキス様の養育係してたんだし』
『まあ多少心得はあるが…やはりとティルキス様は違うからな。気を入れてやらせてもらうさ』
『……旦那なら有り得ないと思うけど…。これだけは言っとく』
『なんだ?』
『…あれはと言っても、前のと混同しちゃ駄目だ!絶対に!!一人の子供と思って接してくれ』
『ああわか……』
『それから!!絶対絶対絶対絶対に泣かさないでくれ!!』
『あ、ああ……』
物凄い剣幕だった……。(まさかあれ程彼に庇護欲があろうとは)
「、急いで降りないでくださいね。危ないですから」
「うん。だいじょぶ」
普通に生活している分にも、接する分にも俺達は上手くやっていけただろう。
前のグループは多少気質の合わない者が組まされたらしいが、それでも終わった頃には彼等が仲睦まじく、とまではいかないが協力していけたと聞いている。
今回の騒動は、が我々に団結力を学ばせてくれる為に作ってくれた良い機会なのかもしれないな。
「今日で終り…と言うのが名残惜しいな」
「ふふ、僕もです。まるで本当の家族のように過ごせましたから」
この家と言う空間と、と言う人物が合わさった時そこにいた我々は皆一つの家族になれる。
本物の家族がいる者もいるが、アドリビトムの中には家族を亡くした者もいるからな。
『ティルキス様もに会いたいと言っていたな。今度一緒にお訪ねせねば』
先の予定を楽しみにしながら、朝食を食べに食堂へと向かった。
朝食を食べ終え、五人は広場へと向かった。
「次の当番は誰なんでしょうね。、誰と次はいたいですか?」
「ねーのいしゅとあしょぶの!あとねぎーとともあしょぶ!」
「さんは動物が好きですものね」
今回のメンバーは気性が穏やかな者ばかりが集まったからこそこのように和やかな雰囲気がよく流れる。
しかし広場へと近づくにつれて四人(除く)の顔色が段々と悪くなる。
「もしかして…次の番って……」
「あの場所で待っていると言う事は…そうなのだろうな」
「どうしてこの僕が君と一緒なのかな。その趣味悪い香水付けた奴と一緒なんて心から拒否するよ」
「なんだその眼差しは!駄目だぞ、俺にはアリスちゃんと言う心に決めた人が…!」
「…おい、今からでも遅くない。メンバー変えた方が良いんじゃないか?」
「あらあら〜。皆仲良しさんね〜」
露骨に嫌悪感を顔に出したサレと、それに気付かないデクス。
頭を抱えるユーリと、状況を解っていないグリューネ。
「…私に提案があるんだが」
「奇遇ですね、フォレスト殿。僕も思いました」
「私もです…」
「このまま、見なかったことにしますか」
四人が回れ右をして広場から出ようかとした時、が目を輝かせて走り出した。
「!?」
手を繋いでいたイオンは、まさかの展開に驚いた。
「らぴーどっ!!!」
「アウ?」
はユーリと一緒にいるラピードを見つけて走り出したのだ。
自分の身の丈より大きいラピードに飛びつくときゃっきゃと喜んだ。
「あれ、いつの間に来たんだ?」
「あ…いや…さっきだ」
が走り出した為、出て行かざるを得なくなった四人は少しばつが悪そうな顔をしていた。
「おお、!ちっこくなったって聞いてたけどホントだったんだな!」
デクスが近づくと、はぴたりと固まりラピードの背中にしがみ付いた。
ラピードもを乗せたままデクスから離れる。
「あ、あれ?」
再び近づこうとするデクス。
そしてまたラピードは一歩後退。
じり
じり
一歩近づけば一歩後退。
デクスは訳が解らず、一気に距離を詰めようとした。
「やーーーーーーー!!!らぴーど、はやくはやくぅ!」
「ワウッ!!!」
本気で嫌がったに応える様に、ラピードは走り出した。
に本気で拒絶され、デクスは石となる。
後ろでサレが包み隠さず大爆笑していた。
「な……なんでだぁぁぁぁ!!!、俺の何がいけないんだ!!」
「やーーーーー!!!!」
「ワウッワウ!!!」
復活したデクスが再びを追いかける。
ラピードは益々スピードを上げて走り出した。
見かねたユーリがデクスの足を引っ掛けて転ばせる。
「止まれ」
「ぐえっ。…何すんだよ、ユーリ!」
「お前が追うから逃げるんだ」
広場の端でじっと此方の様子を伺っているとラピード。
ようやく笑いから解放されたサレがゆっくりと歩み寄る。
サレが近づいても二人(一人と1匹)は逃げなかった。
「君の香水が臭い過ぎるんだよ。犬は嗅覚が良いし、だってこんな臭い嫌だよね」
「されー」
「そ、そんなああ……。通販で買ったメロメロコウなのに…」
「臭い落とさないと、近寄ってもらえないどころか嫌われちゃったりして」
「!!!!」
真っ白になってしまったデクスを嘲笑うサレ。
かたやのほほんとしているグリューネ。
ユーリは溜息を吐いた。
本当にこのメンバーで一日過ごすのか、と。
「ユーリ。お前だけが頼りだ」
「お願いします」
「さんを…泣かさないでください」
「健闘を祈ります」
全員の励ましの言葉が、ユーリにはプレッシャーにしか聞こえなかった。
「……精々期待に応えられる様善処は……する」
嫌われるかもしれないと言う言葉に過剰反応しながらのた打ち回るデクスと、
それを嘲笑いながら見せ付けるようにと戯れるサレと、
全く状況がわかっておらず穏やかに微笑むグリューネと、
これからの事を考え頭を悩ませるユーリ。
こうして世話当番は四組へとうつったのだった。